ソーシャルビジネスの定義
ソーシャルビジネスとは、ビジネスの手法を通じて社会的な課題の解決や持続可能な社会の実現を目指すビジネスの形態を指します。
このビジネス形態は、社会的なインパクトを生み出すことを目的としながら、同時に事業収益を上げることによって経済的な持続性も確保しているのが特徴です。
一般ビジネス、NPOとの違い
「社会貢献を仕事にしたい」と思った時、転職の対象として考えられるのは、主にソーシャルビジネスとNPO(非営利組織)です。
両者を合わせて「ソーシャルセクター」と呼ぶこともありますがこれらの間にはどのような違いがあるでしょうか。
1)社会課題解決の範囲
社会課題の解決を担うという意味では、ソーシャルビジネスとNPOには違いはありませんが、上記の特性から、ソーシャルビジネスはビジネスとして収益を確保する必要があり、事業として持続可能な範囲内で活動します。
一方、NPOはマネタイズが難しい社会課題にも取り組むことができるという特徴があります。
2)資金源と利益の分配
ソーシャルビジネスは、収益を上げることが必要なビジネス形態です。一般的なビジネスと同様に、自己資金調達や投資家からの投資を受け入れます。
一方、NPOは事業からの収益もありますが、収益を上げることを主目的とはしていません。そのため、主な資金源は寄付や助成金です。 また、NPOは利益配分を行いませんが、ソーシャルビジネスは投資家に利益を分配する必要があります。
ソーシャルビジネスとインパクトスタートアップは違うの?
ソーシャルビジネスという言葉が一般的に広く浸透しているため、本記事ではソーシャルビジネスという用語を使用しますが、最近では「インパクトスタートアップ」という言葉も使われるようになっています。
ソーシャルビジネスの中でも、特にソーシャルベンチャーと言われてきた企業が、自称・他称としてインパクトスタートアップと言及することも増えています。
1)インパクトスタートアップの特徴
インパクトスタートアップの特徴は以下の通りです。
- 創業の背景や企業の存在意義に「社会へのポジティブなインパクトを与えたい」という意志が強く組み込まれている
- 目標とするパフォーマンスに「インパクト」に関する指標がある・作ろうとしている
- インパクトの創出に関する活動を実際に行っている
※ユニファ、ライフイズテック、READYFOR、ヘラルボニー、五常など23社で「インパクトスタートアップ協会」を設立!|ヘラルボニーのプレスリリース (prtimes.jp)より引用
2)インパクト創出と測定
これらの特徴のうち、1と3は従来のソーシャルビジネスと共通していますが、2の実際の社会へのポジティブなインパクトを計測し、指標化する点が特徴的です。これは、今後のソーシャルビジネスに求められる方向性となる可能性があります。
「社会的インパクト」について詳しく知りたい場合は、以下の記事を参照してください。
企業事例と採用の現状、仕事内容
ここでは、ソーシャルビジネスに該当する企業の事例について見ていきます。
独特の職種があるNPOとは異なり、ソーシャルビジネスでは前職の経験やスキルを活かすことができる職種が多く存在します。これは、異なる業界であっても、前職のスキルや経験が生かされる可能性が高いということを意味します。
雨風太陽
事業内容
雨風太陽は東日本大震災をきっかけに生まれました。「都市と地方をかきまぜる」をミッションに、都市と地方のあいだに「関係人口」を生み出すことで「疲弊する都市」と「衰退する地方」双方の課題解決を目指してきた企業です。
2022年に株式会社ポケットマルシェから株式会社雨風太陽に社名変更しています。
主な事業は以下の通りです。
- 生産者と消費者を直接繋ぐ国内最大級の産直アプリ「ポケットマルシェ」
- 寄附者と生産者が繋がるふるさと納税サイト「ポケマルふるさと納税」
- 食べもの付き情報誌「食べる通信(R)」「東北食べる通信」
- 親子向け地方留学プログラム「ポケマルおやこ地方留学」
採用情報
雨風太陽の採用情報はこちらから確認する事ができます。
2023年7月時点では、エンジニア、営業、カスタマーサポートなど、様々な職種が募集中です。
様々な媒体で社員インタビュー掲載されており雨風太陽の社内の空気を知る事ができます。元々ポケマルユーザーやファンだった方が社員になって活躍されているのが特徴的です。
ヘラルボニー
事業内容
ヘラルボニーは「異彩を、放て。」をミッションに掲げ、2018年に設立された若い企業です。福祉を起点とし、障害というイメージ変容と新たな文化の創造を目指しています。
ヘラルボニーは、福祉施設や主に知的障害のある作家とライセンス契約を結び、彼らのアート作品をファッションやインテリアに融合させ、販売しています。この取り組みにより、売上の一部は作家への報酬として還元されます。日本には、知的障害や身体障害のある方が職業訓練施設で働くことを支援する制度がありますが、その中での平均賃金は月額2万円以下です。しかし、ヘラルボニーでは年収数百万円を超える作家や、確定申告を行う作家を輩出しています。
採用情報
ヘラルボニーの採用情報はこちらから確認する事ができます。
2023年7月時点では、マーケティング、経理など、様々なポジションが募集中となっています。また、採用条件には「手話ができる方や手話通訳士資格を保持している方」が歓迎されているなど、ヘラルボニーのソーシャルビジネスの特徴が反映されています。
五常・アンド・カンパニー
事業内容
五常は、民間版の世界銀行を目指している企業です。2014年に「金融包摂を世界中に届ける」というミッションを掲げて設立されました。
同社は途上国において中小零細事業向けの小口金融サービス(マイクロファイナンス)を展開し、2030年までに50カ国で1億人にサービスを提供することを目指しています。2023年2月末時点で、インド・カンボジア・スリランカ・ミャンマー・タジキスタンの5カ国において9,200人を超えるグループ従業員を擁し、融資顧客数は160万人、融資残高は1,000億円を突破しました。
五常は2021年11月に「J-Startup」に選出され、2022年6月には「日本スタートアップ大賞2022 経済産業大臣賞(ダイバーシティ賞)」を受賞するなど、注目を浴びている企業です。
採用情報
五常の採用情報はこちらから確認する事ができます。
上記の事業内容の通り五常はグローバルな企業であり、求人は英語で行われます。したがって、応募資格には流暢な英語が求められています。
ソーシャルビジネスの企業を探す際のキーワード
「ソーシャルビジネス」の特徴は、これまでも述べたとおり、「社会的企業」や「インパクトスタートアップ」あるいは「ソーシャルベンチャー」(社会起業)と重なるところも大いにあります。(これまでに紹介した3社は、すべてインパクトスタートアップ協会に加盟しており、社会課題の解決と持続可能な社会の実現を目指しています。)
またNPOなど非営利団体も含めた「ソーシャルセクター」への転職という意味で「ソーシャル転職」と呼ばれる場合もありますし、「ソーシャルグッド」(=社会的善)を目指す企業という意味合いで、「ソーシャルグッド転職」と称されるケースもあるようです。
求人を探す際には「ソーシャルビジネス」や「社会貢献」「社会課題解決」といったキーワードに加えて、「インパクト」や「ソーシャルグッド」といったキーワードも加えてみてはいかがでしょうか。
収入を維持してソーシャルビジネスへ転職できる?
実際のところ、「収入が維持できるのか?」という点は気になるところですよね。
一般企業とソーシャルビジネスの間には給料差があるのでしょうか。正確なことを言うためには、統計データなどが必要ですが、現在のところ統計データは存在していません。
私個人の転職活動の経験から言えば、同じようなポジションでも2割ほど低いと感じます。大手企業や外資系企業、金融機関・コンサルティングファームからの転職を考えている方は、より大きな給与の減少がある可能性があります。
なぜソーシャルビジネスの給与は一般企業と比較して低いのか
その理由にはいくつかの要素が考えられますが、主な要因は「規模」と「性質」です。
給与は一般的に大手企業ほど高くなる傾向がありますが、ソーシャルビジネスはスタートアップやベンチャーなどの「規模」が小さな企業が多いため、基準が中小企業基準になることがあります。
また、ソーシャルビジネスの「性質」も要因の一つです。
ソーシャルビジネスは社会課題を解決することを目的としています。社会課題に取り組む場合、見込まれる収益が少ないため、一般企業がビジネスを行わない領域があります。こうした課題解決に取り組む際に、公共事業やNPO・NGOが関与することもありますが、ソーシャルビジネスはその中間に位置するのです。
このような構造上、給与水準が低くなる傾向があります。
ソーシャルビジネスへの転職で知っておくべきポイント3つ
ソーシャルビジネスへの転職において知っておくべき3つのポイントをお話しします。
1)大企業のような福利厚生はないが、柔軟な働き方ができる企業が多い
ソーシャルビジネスも企業なので法律で義務付けられた福利厚生(健康保険・社会保険など)は提供していますが、法定外福利厚生(住宅手当、財形貯蓄制度、社員食堂などなど)については大企業と比較して少ない傾向があります。
退職金制度に関してもない場合が多いですが、これはソーシャルセクターという性質ではなく、ベンチャー・スタートアップという規模の企業が多い事が影響しています。
一方で、「働き方」に関してはソーシャルビジネス企業は柔軟な働き方を取り入れ、リモートワークやフレックスタイム、時短勤務など、従業員の働きやすさを重視している企業が多い印象です。
大企業では一律の規定が多い傾向がありますが、ソーシャルビジネス企業は規模が小さいため、一人一人の事情に合わせた柔軟な対応が可能なのかもしれません。
個々の企業によって取り組みや制度は異なるため、転職を考える際には具体的な働き方や福利厚生の内容を確認し、自身の希望に合った企業を選ぶことが重要です。
2)のんびり働けるという幻想は捨てた方がいいが、成長できるチャンスがある
ソーシャルビジネスの話をすると「社会貢献」という言葉から連想なのか「ボランティア」や「プロボノ」のように余力で行うものとして誤解されることがあります。
しかし、実際にソーシャルビジネスに携わると、のんびり働けるわけではなく、むしろ高い成長と挑戦が求められることがわかります。
ソーシャルビジネスは社会的な問題解決を目指しながら収益を追求するビジネスモデルです。
そのため、利益を生み出さなければ事業を継続することができません。助成金や寄付金に頼ることなく、事業で収益を上げる必要があります。
筆者は現在マーケティング職として働いていますが、前職では大企業に所属していました。大企業では成功するための知見やノウハウ、ベストプラクティスなどが蓄積されていますが、ベンチャー規模の企業にはそれがありません。
新しい環境では一から創り上げていかなければなりません。職務の難易度は高いと感じますが、その分、考え抜いて行動し、さらに考え抜くことで成長を実感しています。
ソーシャルビジネスに関心を持っている方は、自身のスキルや能力を活かし、新たな挑戦と成長の機会を見つけることができます。
3)永久就職という考え方はないが、キャリアは一方通行ではないし多様性がある
永久就職という考え方はないと言えますが、キャリアは一方通行ではなく、多様性があると言えます。
日本の企業、特に大企業に就職する場合、多くの人が定年までその企業に勤めることをイメージする傾向があるかもしれません。
日本の大企業の平均勤続年数は20年を超える企業も多いですが、ソーシャルビジネスはまだそのものの歴史が浅く、人の流動性も高いと感じます。
ソーシャルビジネスへの転職には、キャリアパスが見えないという壁があるかもしれませんが、ソーシャルビジネスの人々は自身でキャリアを考え、築いていく人が多いと感じます。
また、多様性も特徴的です。例えば、私の同僚の中には、日系の大企業に勤めた後に海外でNPOと日系企業の両方に携わり、帰国してベンチャーに転職した人や、外資系企業で働いた後に大手国際NGOに移り、海外に移住、長い海外在住の期間中に旅行業への勤務も経験し、再び帰国してから大手国際NGOに戻り、現在の企業に転職した人など、ソーシャルセクターと通常の企業を行き来する人々もいます。
ソーシャルビジネスの世界では、人々は自身の経験や関心に合わせてキャリアを築いていく自由度が高く、多様性がある事が特徴のように感じます。
転職先の探し方
実際に転職の検討を始めた際にどこから見つければ良いのでしょう。
1)専門の採用情報サイト
転職を検討する際に役立つ情報源としては、以下のような専門の採用情報サイトがあります。これらのサイトはソーシャルセクターに特化しており、社会貢献に関連する求人情報を集めています。非営利団体(NPO)と営利団体(ソーシャルビジネス)との比較検討もしやすいでしょう。
それぞれのサイトには転職に関する情報やアドバイスも掲載されている場合がありますので、そうした情報も参考にしてください。
本サイトFunDioでも求人情報を掲載しているので、ぜひチェックしてください。
2)一般の採用情報サイト/エージェントで探す
一般の求人サイトやエージェント(人材紹介会社)も転職活動に活用する事ができます。
メリットとしては営利企業求人情報が多くありますので、ソーシャルビジネス以外の企業や、社会課題解決型の事業部門やCSR部門などの募集情報も探し、比較検討する事ができます。給与や待遇など自分の現在の環境とギャップが少ない求人を見つけられる可能性が高くなります。
デメリットとしては、求人情報の掲載料などの関係で、ソーシャルビジネスの求人数が限られる場合があります。エージェントは主に一般企業への転職サポートを行っているため、ソーシャルビジネスへの転職に関しては十分なサポートが得られない場合があります。
3)転職先の候補となる企業の公式サイトやSNSをチェック
上記のような求人媒体には掲載されていない場合でも、直接企業の公式サイトなどで募集情報を見つけることが、筆者の経験上最も多いと感じます。
自分が共感するビジョンを持つ企業や気になる企業は、SNSなどでフォローして情報収集をし、チャンスがあれば迅速に応募することが具体的な転職を考える際には重要です。
4)リファラル採用
規模の小さい企業の場合、リファラル採用枠が意外と多いことがあります。公募は行われていなくても人材を探している場合や、条件に合う人材が見つかれば雇うことができるケースもあります。
そのため、オンラインセミナーへの参加や面会の依頼を通じてつながりを築くことが有効です。
特に企業のステージが初期の場合は、媒体ではなくリファラル採用のケースが多い傾向があります。
いかがでしたでしょうか。色々と書いてみましたが、筆者としては自分で情報を集める、話を聞きに行く、人生での優先順位を考えてみる、転職後の生活がどうなるかのシミュレーションをしてみる、など実際に動いてみる事をおすすめします。
私自身は40歳になり、人生の後半を意識し、「人生が終わる時にやりたい事に挑戦しなかった事を後悔したくない」と思い、ようやく重い腰を上げて今の会社に転職をしました。
今回の記事が「いつか・・・」と思っている方の行動を起こすきっかけになれば幸いです。