マンスリーモデルで先行投資がなぜ大事?「年間1億円以上」など事業規模に応じた計画の立て方

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マンスリーサポーター収入を年間1億円など一定以上の規模感まで増やしたい場合に欠かせないのが、“投資と回収”の考え方を踏まえた事業計画を立てることです。 新規でマンスリーサポーターになってもらうためには、いくらのコストがかかるのか? 5年後には、何%の寄付者が継続して支援くださっているのか? それらの指標を予測してモデルを組むための、データベース分析やテストマーケティングの方法論をまとめました。

「マンスリーモデル」は、獲得コストのかかる“先行投資型”

はじめに押さえておきたいのが、マンスリーサポーターは“先行投資・回収型”の事業モデルであることです。

1つ目に大事なのは、新規会員を獲得するためにコストが発生すること。前回までにお話ししたようなデジタル広告を活用すると、マンスリーサポーターに新たになっていただくために、目安として1人あたり20,000~30,000円前後の費用がかかります。

毎月の収入が積み重なり、新規獲得コストを回収する損益分岐点に



しかし、一度寄付を始めると、メール等でのお礼や活動の報告、会計情報の開示など適切なコミュニケーションをとっていけば、多くの方は継続してご支援くださります。月あたりの寄付額(平均単価)が仮に2,000円とすると、1ヶ月後は2,000円、2ヶ月後は4,000円と累積での寄付額が積み上がっていきます。(※1)

そこで、2つ目に大事なのが、一定の年月を超えると、獲得コストを累積収入が超える「損益分岐点」に達することです。この投資を回収するまでの期間は団体にもよりますが、10~18ヶ月の範囲におさまることが多いようです。損益分岐点を超えると、その後は“黒字”に切り替わり、ファンドレイジング費用を差し引いても活動に使える収入となるのです。(※2)

※1 説明をシンプルにするため、退会による収入のマイナス分は考慮していませんが、実際は後ほど説明するように継続率を加味してシミュレーションをします。
※2 獲得コスト以外にも、クレジットカードや口座振替の決済費用、領収書や年次報告などにかかる郵送費用、問合せ対応等の人件費やITシステムの維持開発費用などが発生しますが、同じく説明をシンプルにするため割愛しています。

ポイント1:新規獲得の効率は、テストと改善で高めていける

このような事業構造を理解したうえで、あなたの団体にとって適切なモデルをどのように作っていけばよいのでしょうか?

1つ目のポイントは、新規会員の獲得コストを適正な水準まで抑えることです。1人あたりの獲得にかかる費用は、マーケティングにかかる費用÷マンスリーサポーター数で表され、CPA(Cost Per Acquisition)と呼ばれます。

以下の表のように、仮に100万円の費用をかけてデジタル広告を配信、そのうち25人の方がマンスリーサポーターになってくださったとしましょう。

広告のKPIと2つのケースを比較



その場合、CPAは100万円÷25件=40,000円。平均単価が仮に月2,000円だとすると、先行投資分を回収するまでに20ヶ月以上と、2年近くかかってしまいます。団体の財務状況などにもよりますが、厳しい試みになってしまいやすいでしょう。

そこで、CPAを20,000円と半分にまで抑えることを目指します。そのために有効なのが、コンバージョン率(CVR)やクリック単価(CPC)など中間指標に分解して、それぞれの指標を見ながらテスト・改善を繰り返していくことです。

  • LP(ランディングページ)などサイト改善で、CVRを高める
  • 広告のクリエイティブや運用の改善で、CPCを下げる

といった方法論は、前号前々号の記事でも解説しました。

ポイント2:LTVを算出して、投資回収をシミュレーション

新規獲得コストに続いて大事なのが、どれだけのスピードと規模で先行投資を回収できるかです。

その予測を立てるためには、団体のデータベースからマンスリーサポーターの寄付実績を抽出して、LTV(Lifetime Value/生涯顧客価値)をシミュレーションで出すことをおすすめしています。

LTVとは・・・

“お客様一人ひとりが生涯にわたって、どれだけ自社の商品・サービスを買ってくださるか?そのトータルの売上を合計した金額が、LTVです。”
「LTV(ライフタイムバリュー)を計算する方法と、算出の注意点」より)

ビジネスの世界、特に同じように先行投資が必要となる、定期通販やサブスクリプションといった月額課金型のビジネスモデルで重視されてきた指標です。とはいっても、一般的なビジネスと比べると、マンスリーサポーターでのご寄付は長期間に及びます。10年以上寄付を続けてくださる方も少なからずいらっしゃいますし、LTVを正確に出すことはできません。

しかし、現時点でマンスリーサポーターになってくださった100人が、1年後や3年後あるいは5年後に、寄付をしてくださる総額がいくらになるか?は、「過去の継続率と同程度だったら」と仮定を置くと、一定の精度で予測できます。

継続率を調べて、投資回収をシミュレーション



詳しい計算方法はこちらの記事にも書きましたが、平均単価と継続率(退会率)をもとに、簡易的な計算式を組んで出してみるのが、多くの団体にとって現実的でしょう。

上のグラフの例では、100名の方が支援を始めたとして、1年後には88名、2年後には78名が寄付を継続してくれていることがわかります。年ごとのマンスリーサポーター数の推移に平均単価を掛け合わせると、累積での寄付収入が計算できます。

「損益分岐点をどの程度のスピードで越えられるか?」「その先にどれだけの収入を積み上げられるか?」を、過去の実績データをもとに予測するのです。

投資回収の“方程式”ができたら、求める規模感やスピードは団体しだい

ポイント1と2がクリアになれば、「x円の投資をしたら、5年間でy円のリターンを得られる」といった“方程式”を組めるようになります。

投資にあたる新規獲得コスト(CPA)は、広告費をかけた施策をしたことがない団体には実績データがないでしょう。その場合は、数十万円から数百万円の予算を準備してテストマーケティングをすることをおすすめします。リターンにあたる累計の寄付額(LTV)は、平均単価と継続率がわかれば、過去の推移から一定の精度で予測できます。

現時点でマンスリーサポーターがほとんどいない団体は、一般的な水準として「5年間で80,000-120,000円程度」という数値を参考にするとよいかもしれません。(もちろん会員制度やイシュー、決済方法などによっても異なります。)そのうえで、「どの程度の資金を調達したいか?」そのために「いくらの投資をするか?」は、資金調達のニーズや財務状況など団体によって異なります。

【ケースB】4,000万円の広告投資をした場合

以下のケースBでは、4千万円の広告費をかけて5年間で2億円の寄付を得られることになります。収入から費用を差し引くと、手元に残るのは1億6千万円。さらに6年目以降も、継続してくださった寄付者からの収入が少しずつ積み上がっていきます。

先行投資と回収のシミュレーション



年間収入2億円は、累積のマンスリーサポーター数が10,000人となれば、年平均単価を20,000円とやや低めに見積もっても達成できる水準です。ケースBのペースで新規獲得をしていけば、退会を考慮に入れても3年前後あれば、ゼロからでも達成が見込めるでしょう。

【ケースA】無料の施策のみで地道に広める場合

先行投資を減らしたい場合は、もちろん広告費をかけずにSNSやイベントなど無料の施策だけでマンスリーサポーターを集めることも可能です。しかし、無料での施策だけの場合、「年間1,000人以上」など、一定以上の規模を達成するのは、特別な条件がない限り難しいようです。

ケースAでは、新規獲得にまつわる直接的な出費(人件費以外)は発生しないもの、5年間での収入の合計は2,000万円。寄付額はケースBの10分の1で、活動に使えるお金も小さくなります。逆に言えば、事業の資金調達ニーズを満たせそうであれば、無理して先行投資をする必要もないでしょう。

【ケースC】広告予算を拡大して、スケールを目指す場合

逆に、活動に使える資金を増やしたい場合は、“方程式”ができていれさえすれば、投資を増やすことで実現可能性は上がります。

しかし注意しておきたいのは、広告費の金額が大きくなればなるほど、一般的にCPAが高騰していくこと。広告費が少ないうちは、予算を増やした方がCPAは下がっていきやすいのですが、一定の金額を超えると規模を求めるほど効率が悪化していく傾向があるのです。

ケースCでは、6億円の広告費をかけて5年間で20億円の寄付を得られています。寄付収入を獲得費用で割ったROI(投資対効果)はケースBと比べて悪化していますが、差し引きで活動に使える金額は14億円と大きく増えています。

デジタル広告投資が適したアプローチか?は、団体の規模やフェーズしだい

これらの例からわかるように、どの団体にも当てはまる正解はありません。

  • 活動に必要な資金は、何年間でどの程度か?」といった事業計画の観点
  • 「寄付金のうちファンドレイジングにかけてよい費用の割合は?」といった倫理的な説明責任の観点
  • 「先行投資による“赤字”の期間を耐えられるだけの、キャッシュフローの余裕はあるか?」といった財務状況

これらの視点を総合して、ファンドレイジング部門だけではなく経営ボードや管理部門も一緒になって、計画を策定していくのです。

したがって、“汎用解”は存在せず団体ごとに、“個別解”を出すしかありません。しかし、団体の規模やフェーズによって、適したアプローチの方法はある程度一般化することができます。

まず年間の事業規模が1億円以下の団体は、先行投資の余力の観点から、まずはケースAのように無料での施策に地道に取り組んだ方がよいかもしれません。「長期的な収入を増やすためにマンスリーサポーターに今から力を入れるべきか?」それとも「直近の収入に反映しやすい、単発寄付や助成金などに当面は注力した方がよいか?」も議論となりやすいポイントです。

団体の規模・フェーズ別の考え方



一方、事業規模が年間1億円あるいは2億円以上などで、財務状況にある程度の投資余力があり、短期間での成長を志向する場合は、広告投資を検討してみてもよいでしょう。数年前までは、広告を出すのは国際NGOの日本支部など大規模な団体がほとんどでしたが、近年はデジタル広告を活用して成長を加速させる国内発の団体も増えてきています。

この記事を読んでくださっている方の団体の状況に合ったファンドレイジング計画を立てるのに、この記事が役立つように願っております。

この記事を書いた人
山内 悠太
ファンドレイジング・コンサルタント

1982年生れ。東京大学教養学部卒。大手メーカー(三洋電機)・広告代理店(ファインドスター)・教育NPO(認定NPO法人カタリバ)を経て、2014年に独立。
現在は「ファンドレイジング」と呼ばれる非営利団体の寄付募集を、コンサルタントとして支援しています。

マーケティング戦略の策定から「マンスリーサポーター」はじめ個人寄付収入の拡大、オペレーションのデジタル化まで、NPO・NGOや大学など10団体以上をサポートしてきました。

元々は「ダイレクトマーケティング」と呼ばれる分野で、広告やCRMの仕事を手がけてきました。
今もD2C(EC通販)やサブスクリプションなど業界にも携わり、その知見を非営利セクターに応用しています。

「非営利セクターで働く人、働きたい人のキャリアや学習を応援したい」という思いから、2022年にFunDio(ファンディオ)を立ち上げ。
「社会貢献の仕事をしたい」「NPOで働きたい」といった方には、キャリア相談にも乗らせてもらっています。

生まれ育った東京を8年前に離れ、湘南の自宅で仕事をしています。
7歳の娘の父。ラグビーやランニングなど体を動かすこと、本を読むことが好きです。

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