NPOに転職した私が、副業を3年間続けて良かったこと。後悔していること

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NPOやNGOで働くにあたって、気になってしまうのが収入面。「会社員の頃と比べると、給料が半分近くになった・・」「転職したいけど、家族もいるので踏み切れないでいる」といったお話も、少なからず聞きました。そこで、有効な対策となりうるのが「副業」。NPOなどで職員として働きながら、副収入を得ることはできるのか?私の実体験と、副業をして良かったこと・後悔していることをまとめました。

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目次

「会社、辞めます」から始まった、3年間の副業生活

私が副業を始めたのは、2011年の夏のこと。
それまで3年半勤めていた広告代理店から、NPO法人に「転職」したのがきっかけでした。

東日本大震災が起こってから、「何か自分ができることをしたい!」と悶々とした思いを抱えていた私。
縁あって、被災地の子ども支援など教育活動を進めるNPO法人で、資金調達(ファンドレイジング)の仕事をすることになりました。

転職が決まったのは、今まさに放課後の学校が立ち上がるというタイミング。

「すぐ来てほしい」という要望に、勢い余って転職先と打ち合わせをしたその日に、当時の上司と面談の時間をもらって、「会社を辞めたいです」と唐突に伝えてしまいました・・
上司には引き止めていただきつつ、最終的には応援してもらえましたが、属人的な仕事は引き継ぐのが難しく「退職時期は、どうしよう・・?」と保留になりました。

NPO法人に転職するということで、私も収入面の不安も抱えていたこともあり「そうだ!」と、「仕事の一部を、業務委託で続けさせてもらえませんか?」と提案
転職元の会社に認めてもらい(←当時の上司が合理的な考え方をする方&応援してくださって、有難かった!)、また転職先にも掛け合ったところ了承をもらい、転職と同時に副業生活をスタートすることになりました。

副業として担わせてもらったのは、以下の2つがメイン。
稼働時間に換算するとだいたい週に1日程度でした。

・メールマガジンやニュースレターなどの記事を書く
・マーケティング部門の2週間に1度の定例MTGに参加して、アドバイスする

月に2〜3回はオフィスに訪問するなどしたうえで、記事の執筆などは休日や夜などを活用しつつ執筆。
(転職先では柔軟なワークスタイルを認めてもらい、平日昼の業務時間中にも一部取り組ませてもらいました)

結局、転職先を卒業して独立するまで3年間、副業を続けさせてもらいました。

副業を続けて「良かった!」と思える5つの理由

この副業、時間や体力などしんどかったこともありますが、続けられてよかったなと今でも思います。
当時を振り返って、5つのメリットに整理してみました。

メリット1:NPOで働く収入の不安から解放された

1つ目は、シンプルですが収入面のメリットです。

NPO法人ということで、入社した当時は新入社員並みの給与。
(その後に団体全体の給与改善や、管理職になったことなどもあって昇給しましたが)
年収は大幅に下がり、またボーナスも未定ということで、30歳目前の男子としては不安に思える要素が満載でした。

勢いで転職を決めた直後には、「この先ちゃんと暮らしていけるかな?」「結婚できるかな?(←これは別のことを心配しろという感じですが)」と不安を抱いていましたが、転職元の会社で評価していただいていた仕事を副業とさせてもらったこともあり、金銭的な心配はせずに仕事に打ち込めることになりました。
(おかげさまで、副業中に無事に結婚もできましたw)

メリット 2:マーケティングの先端事例に触れ、本業との相乗効果

2つ目は、本業と相乗効果があったことです。

私の副業は、マーケティングの先端事例を記事にして発信するという仕事。
広告代理店で発行するメールマガジンやニュースレターなどに載せるために、広告やCRMの事例を収集したり専門家にインタビューをしたりしていました。

本業は、NPO法人でマーケティングを活用して「寄付」や「募金」を集めるという仕事。
ビジネスの世界で展開されている最先端のマーケティング情報に触れられたことは、本業で応用できるたくさんの知見を学ばせてもらいました。
マーケティングの世界は進化が早く、ちょっと離れていると「浦島太郎」状態になってしまうので)

メリット3:「転職したから、さよなら」とならずに済んだ

3つ目は、会社で培った人間関係が緩やかに保てたことでした。

私の転職は、「広告代理店」から「NPO」と全く異なる業界へ。
転職前は、社内外でたくさんの魅力的な方に出会えたのですが、転職先はまったく異なるネットワーク。
そのままだと段々と疎遠になっていたはずですが、副業でオフィスを訪ねたり社外の会合に参加させてもらうことで、築けた人間関係を緩やかにつなぐことができました。

かつての同僚やクライアントと話すことで、転職先の仕事で直面している課題の相談に乗ってもらったり、「この世界が当たり前ではないんだ」と気づかせてもらったり、時には励ましてもらったり
仕事上で2つの世界をもっていることで、多様な視点を保てたと思います。

メリット4:会計や税務をゼロから実地で身につけられた

4つ目は、会計や税務の知識の習得です。

個人事業主として業務委託で収入をいただいたので、当然にしなければいけないのは「確定申告」。

1年目は右も左も分からず、年明けに「初めての確定申告」みたいな本を買ってきて、泣きそうになりながら領収書の経費を弥生会計に打ち込み
税務署の職員の方に何度もしつこく聞いて教えてもらいながら、なんとか出すことができました。
(2年目以降は慣れたのと、freeeを導入して無駄な工数がだいぶ減ったので、あまり苦労はしなくなりましたが)

そんな甲斐あってか、「控除」とか「減価償却」とか会計・税務の基本的な考え方も理解できたし、独立してからも必要な経理業務を覚えられました。

メリット5:独立へのステップアップに

最後に、思い切って独立に踏み切れる自信を持てたことです。

私が独立したのはNPO法人に転職してから3年後、妻のお腹のなかにはもうすぐ産まれる赤ちゃんがいました。
「乳飲み子を抱えて、路頭に迷ったらどうしよう?」と、普通なら躊躇するタイミングかと思いますが、エイやと踏み出せたのは、副業をしていたから。

まず副業でお手伝いしていた広告代理店の仕事は継続して、また時間的に余裕ができるということでコミットを増やさせてもらうことに。
また、NPO法人も独立後も外部からサポートさせてもらうことになりました。これも副業で、広告代理店の仕事を外部からサポートしてたので、独立後の関わり方をイメージすることができたからと思います。

また、「フリーランスで仕事をしているらしい」と噂(?)が流れたためか、NPO法人に在職中もいくつかの会社から「仕事を手伝ってほしい」と声をかけてもらいつつ、「今はできないのですが、いつか独立したらぜひお手伝いさせてください」と答えていました。

そんなこんなもあって、独立する前にも当面の収入の目処が立てられたので、組織を飛び出すことができました

後悔しているのは、時間がとれなかったこと

とメリットを並べてきましたが、もちろん良いことばかりだった訳ではありません。
最大の問題は、仕事以外の時間がとれなかったことでした。

「転職先の仕事を週4日」「副業を週1日」という約束で始めたのですが、転職先で事業の立ち上げを責任者として託されたこともあって、「週4日」から「週5日」、そして「週5.5日」という状態に。
最初の1年弱は、ほぼ休日も無しで働きづめでした。

「1ヶ月間運動していない」という時期があったり、仕事以外の会合や友達との集まりにも無沙汰が続いてしまったり。
精神的に不安定になって、今思い返せば「鬱病一歩手前」という状態になったこともあります。

そんなこんなもあって、途中から副業のコミットを減らしてもらい、また本業の方で職員の採用や仕組みの整備などでやっと落ち着いてきて、2年目くらいからは何とか休めるようにはなりました。

また当時を振り返ると、本業で「もし当時に○○に本腰を入れて取り組んでいたら、もっと早くにスケールできた・・」など後悔することもあり、正直に言うともし副業をしていなかったら、取り組む時間的な余裕もあったかもしれません。
でも、本業ばかりで働き詰めだったら、逆につぶれていたかもしれないし、時間の使い方の優先順位をもっとうまくつければよかったと今は捉えています。

この「時間」の問題以外は、副業によって具体的なトラブルが生じたことなどはなく、両方の会社からも概ね温かく理解してもらい(と鈍感かもしれませんが感じ)、3年間の副業生活を無事に終わらせることができました。

「お金をもらって終わり」ではなく、相乗効果の生まれる“複業”を

と3年間の副業生活を振り返ってきましたが、文章を書く過程で私が改めて感じたのは、単に副収入が得られるというだけでないメリット。
当時に読んで影響を受けた「25歳からのひとりコングロマリットという働き方」(おちまさと)という本の一節を借りて説明すると・・

「本業と副業」という言葉がよく使われますが、複業時代のひとりコングロマリットという働き方は、それとも違います。
会社に勤めながらいくつか仕事を持っていたとしても、ひとりコングロマリットの場合、それらは「本業と複業」ではなく、全部まとめて「複業」なのです。

同書で言う「副業」は“足し算”の仕事。
収入が多少増えるだけで、それ以上の広がりは生まれません。

一方「複業」は“かけ算”の仕事。
自分の新しい能力が引き出されたり、出会いや可能性が広がったりするという効果も
生まれます。

私の場合は、メリット2・3で書いたように知識やノウハウ、人脈面で相乗効果があったり、メリット4・5のように将来への布石になったりしたことが、時間的にはしんどい中でも有意義な実感を得て、3年間副業を続けられた要因かもしれません。
それぞれが持つ「好き」や「専門性」を活かして、それら掛け合わせて多様な価値が生まれる社会になると素敵だな、と副業体験記の筆を置かせていただきます。

この記事を書いた人
山内 悠太
ファンドレイジング・コンサルタント

1982年生れ。東京大学教養学部卒。大手メーカー(三洋電機)・広告代理店(ファインドスター)・教育NPO(認定NPO法人カタリバ)を経て、2014年に独立。
現在は「ファンドレイジング」と呼ばれる非営利団体の寄付募集を、コンサルタントとして支援しています。

マーケティング戦略の策定から「マンスリーサポーター」はじめ個人寄付収入の拡大、オペレーションのデジタル化まで、NPO・NGOや大学など10団体以上をサポートしてきました。

元々は「ダイレクトマーケティング」と呼ばれる分野で、広告やCRMの仕事を手がけてきました。
今もD2C(EC通販)やサブスクリプションなど業界にも携わり、その知見を非営利セクターに応用しています。

「非営利セクターで働く人、働きたい人のキャリアや学習を応援したい」という思いから、2022年にFunDio(ファンディオ)を立ち上げ。
「社会貢献の仕事をしたい」「NPOで働きたい」といった方には、キャリア相談にも乗らせてもらっています。

生まれ育った東京を8年前に離れ、湘南の自宅で仕事をしています。
7歳の娘の父。ラグビーやランニングなど体を動かすこと、本を読むことが好きです。

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