寄付収入が一定規模に達した非営利組織に、しばしば立ち現れる“成長の谷”。たとえば寄付収入が数千万円から数億円といった段階で、なぜ非効率や停滞が起こりやすくなるのか?谷を乗り越え、成長の引き金を引くにはどこへ投資すればよいのか?ファンドレイジングの海外研究や国内事例をもとに、ステージ別に整理して解説します。
資金調達の効率性と組織規模は、U字型に
Fundraising Principles and Practice(Adrian Sargeant, Jen Shang)という米国の高名な研究者の書いた、ファンドレイジングの教科書があります。
ファンドレイジング部門の組織づくりについて相談をもらった際に、ヒントを探して読み返していると、興味深い記述が見つかりました。
資金調達の効率性、すなわちスタッフの人数や費用などコストあたりで、どれだけの寄付額を得られているか?を団体規模別にプロットした時、「U字型」になるというのです。

資金調達効率と組織規模の関係性(Fundraising Principles and Practiceの内容をもとに、筆者作成)
日本国内でも、この「U字型」は当てはまりそうです。
簡易的にですが、ファンドレイジング部門の人数と寄付収入から、ファンドレイザー1人あたりの寄付獲得額を出すと、1人あたり生産性が年間寄付収入額10〜30億円以上など大手の団体ほど高くなる傾向があるようです。
大規模な団体は、なぜ少ない人数で多くの寄付額を集められるのでしょうか?それは、これまでにご支援いただいた既存寄付者のリストがあり、ドナーベース(=アプローチ対象となるアクティブな寄付者の母数)が大きくなるからです。
したがって、「メールを打つ」「DMや会報誌を送る」といった施策1回あたりの寄付の獲得額が大きくなる、「規模の経済」が働きます。
また大規模団体は、デジタルや紙媒体の広告、街頭でのキャンペーンなどにも投資できるので、内部の人の稼働に頼らずに新規の寄付者を獲得できます。
データベースや決済、会計、WEBサイトなど共通インフラも充実させることで業務効率も良くなりやすいです。
逆に小さな団体はというと、もちろんそのようなスケールメリットは働きません。
ただ、事業規模が一定以内なら、仕組み化が必要になる度合いも低く、手の届く範囲で回せます。
特定の地域や分野などで決まった支援者がいるならば、新規の寄付者を開拓する必要にも迫られづらいでしょう。
お互いに「顔の見える」関係性を作れていれば、地域の方々がボランティアで参加したり、プロボノの方々などにも活躍してもらいやすいはずです。
したがって、「正規の有給スタッフが1人だけ」「ファンドレイジング専門のスタッフがいない」といった状態でも、なんとか回っていく。
仕組みは整っておらず非効率だけど、ボランティアベースなので資金効率としての数字は高く出やすいのです。
一方、その中間にある団体では、たとえ寄付収入が伸びても、組織として人を充てるなど強化できないと、成長が止まってしまう。
あるいは、基盤整備に投資すべくスタッフを雇用してデータベースの整備などをしても、寄付収入を伸ばせないと効率性が悪化する。
といったことが、寄付収入で年間数千万円〜数億円程度といった段階で起こりがちです。
ファンドレイジングへの投資、ステージごとに何をすべきか?
この「成長の谷」を乗り越え、規模の経済を活かせるようになるまで成長できるか?安定的で効率的な資金調達をできるようになるには?
その処方箋は一概には言えませんが、ステージ別によく発生するパターンとその対策をご紹介します。
ステージ1:ファンドレイジングの基盤整備
1つ目が、「ファンドレイジングを組織として優先するテーマには置けていない」段階です。
- 寄付収入は一定あるが、代表や理事などの個人的な関係性からがほとんど
- クラウドファンディングは散発的に実施しているが、積極的な寄付募集を継続できていない
- 講演やメディア出演などから新規で寄付をいただくが、リピートが少ない
といった事象は、数千万円の寄付収入を集めている場合でも当てはまるケースもあります。
その場合は、ファンドレイジングに一定のリソースを確保するところから始めましょう。
そのためには、「寄付収入アップ」をメインの目標とする職員を内部でアサインすることから始める必要があります。
専任やフルタイムが難しければ、外部のファンドレイザーの力を借りるのも有効でしょう。
(また現実的には、代表や事務局長など幹部クラスが一定の時間を割くことも求められることもあります。)
そのための予算は、年間数百万円にのぼる場合もありますが、内部留保から確保できる場合にはそれを充当し、難しい場合には助成金の活用を検討してみてください。
組織基盤の強化を目的とした助成金も一部ですがありますし、一般の助成金でも広報やファンドレイジングに関する費用を予算に含められるケースや、助成期間終了後の自主財源の確保に向けた費用を計画に盛り込むことを積極的に評価するケースもあるようです。
ちなみにこの段階では、U字型の「谷」に入るため、1年目からかけた費用を寄付収入の増加で回収できるとは限りません。
短期的な効率性はむしろ悪化することを見越してでも、3-5年のスパンで収入を増やしていけるか?その見込み度合いはどの程度高そうか?を、一定の費用をかけてトライアンドエラーしていく段階です。
(期待した成果がでない場合は、撤退という選択肢もありえます。)
ステージ2:新規ドナー獲得などマーケティング
1のようなファンドレイジングの基本動作ができて、一定規模まで寄付収入が増えていった時、壁に当たる組織もあります。
1-3億円程度あたりの場合が多いですが、それは“オープンマーケットの壁”です。
- 活動分野やテーマにおいて実績を作り、地道に情報を発信して第一人者の団体と見なされる
- 地域社会や関係者のなかでネットワークを築き、支援を呼びかけていく
- 既存のご支援者に丁寧に報告・お礼をして、くり返し支援いただく
このような地道なファンドレイジングによって、費用をかけたマーケティングをせずとも、年間寄付額で1-3億円程度まで伸びる団体もあります。
一方、団体の性質や分野にもよりますが、それ以上に寄付額を伸ばしていくために必要なのが、それまで団体を知らなかった一般の方々にも、活動を知ってもらい寄付をいただくこと。
支援者層を広げていくために、新規ドナー獲得への投資が必要となります。
もちろん費用がかかりますし、単年度での収支はマイナスになる場合がほとんどです。
しかし2年後、3年後と寄付をリピートしてもらえれば損益分岐点を超え、5年単位では大きなリターンが見込みやすいのです。
損益分岐点を超えるまでのキャッシュフローは、「内部留保を使う」「法人や遺贈など高額な寄付を充てる」といった場合が多いですし、投資対効果が見えてくれば「銀行などから借入をする」も選択肢になるでしょう。

ファンドレイジング投資を本格化してからの収支推移イメージ(Great Fundraising Organizationをもとに筆者作成)
そのようなマーケティング投資が、次のステップに行くためにはどこかで必要となります。
しかしこれらの施策は、寄付マーケットのニーズと活動内容で訴求するメッセージの精度、団体の認知度などによって左右されるため、期待した結果を達成できない可能性もあります。
したがって、一度に大きな資金をかけるのではなく、まずは200-300万円などに区切ってテストマーケティングをすることを勧めています。
テストで特に肝になるのが、これまで団体を知らなかった人たちにも、わかりやすく活動内容を伝えられるか?その場で寄付をしてもらえる感情的な高まりを作れるか?といった訴求メッセージになります。
そのためのリサーチやプラン策定、クリエイティブ制作などに時間をかけることになりますし、自前で行えない団体ですと、広告代理店や制作会社、コンサルティング会社などに依頼することになります。
ステージ3:人材採用や外部委託でリソースを補強
マーケティングに成功して新規ドナーが伸び寄付収入が増えると、「寄付が増えすぎて、寄付者を十分にケアできなくなる」といったことが起こります。
問合せ対応や領収書発行、決済エラーへの対応などこれまでと同じ人数で行っていると、いくら業務を改善してもキャパシティを超えてしまうのです。
広告が当たってマンスリーサポーターの新規申込が重なったり、キャンペーンなどで既存ドナーからたくさんのご寄付が寄せられると、「オペレーションが回らなくなる」ことも。
そこで有効なのが、需要に応じて受け付けられ、お礼や報告をしっかりできる体制を整えること。
まずは支援者サポートなど「受け」の機能を強化するため、以下の切り口からトライしていきます。
(参考記事:「支援者サポート」の自動化で、バックオフィスの安定と良い“寄付体験”を両立する)
これら“守り”の充実でまずはリソースの余剰を作り出したうえで、ファンドレイザーの採用や外部支援会社・フリーランスへの業務委託などで、“攻め”の施策をできるように人的リソースを充実させていきます。
たとえば「既存ドナーへのメールやDMなどで、リテンションを強化する」や「新規ドナー獲得の勢いが衰えないように別の方法にもトライする」といったことに取り組んでいけば、成功パターンができている場合は、寄付額の伸びも担保されやすいでしょう。
「ギフトオフィサー(Gift Officer)」と呼ばれる、主に大口寄付者の営業や手厚い対応を専門に担うスタッフを置くケースもあります。
「職員1人あたり数千万円〜1億円の寄付額」といった目安を設けられると、採用の目処も立てやすいかもしれません。
経験上、仕組みがうまく回り財務が好転しても、採用や育成など、結局は「人」の課題に行き着くことが多いです。
売り手市場のなか、人材が良い意味でも悪い意味でもボトルネックに。
特に日本では、ファンドレイザーの経験者を採用しづらく、また給与水準を上げづらいなか、若手含めて未経験の人材をゼロから育てて戦力化していくこと、モチベーションを保ち離職を予防していくことも、中長期的な成長には重要になってきます。
(参考記事:ファンドレイザーが活躍できる組織と、やめていく組織の違い)
ファンドレイジング投資の原資
※◎は「非常に適している」、○は「適している」、△は「適すこともある」、×は「適さない」(筆者の経験と主観によって大まかに分類)
非営利組織が、持続可能な発展に向かうために
ここまでステージごとのファンドレイジング投資の考え方を整理してきました。
「投資」というと、特に規模の小さな団体さんは、戸惑われることもあるかもしれません。
そもそもファンドレイジングを強化するのは、資金が不足しているからなのに、資金を集めるためにさらにお金がかかる‥というのは、直感的に理解しがたいでしょう。
“手作り”や“清貧”を求める空気感にどう向き合うか?
たとえROI(投資対効果)など数値面では、事業に使えるお金を増やすために合理的ではあっても、「当面のキャッシュフロー」はもちろん、「リターンの不確実性」や「ステークホルダーの納得感」などから二の足を踏んでしまう団体が多いのではないでしょうか?
このように投資をせずに「手なり」でファンドレイジングを進めるのも、実は理にかなっていた場合もありました。
報酬がそこそこでも優秀な人材を採用できたり、ボランティアやインターン、プロボノといった形で人的リソースを得られるのは、非営利組織ならではの強みとも言えます。
お金をかけずに「人が動く」、労働集約的な構造が機能しやすい前提があります。
また、非営利セクターには、“手触り感”や“1to1の丁寧な対応”を求める空気感が、ご支援者側にもスタッフにもある、とよく聞かれます。
この“手作り”を求めるある種「呪い」のようなものが、規模の拡大に伴い外部との協働やアウトソースを進めるにあたっても、足かせにもなることも見てきました。
しかし、世の中の採用難は非営利セクターにも波及して、“人海戦術”がワークしづらくなっています。
したがって「職員の給与を上げる」といった人的投資はもちろん、「DXによる生産性向上」や「マーケティングの仕組みづくり」など、お金をかけた手段(資本による投資)を取り入れざるを得なくなっている団体も少なくないのではないでしょうか?
「間接費」の比率は低いほど良い、は違う
もちろんファンドレイジングはじめ間接費への支出については、どの程度までが倫理的に許容されるのか?「間接費は15%以下」等と定める団体内での規定と整合するか?など、議論があるところでしょう。
「あなたの寄付したお金が、直接の活動以外に使われる」とは、寄付者さんにも説明しづらい、と感じるスタッフの方の声も聞きました。
一方、大規模な非営利組織の財務諸表を定点観測していると、寄付募集や募金活動をはじめとするファンドレイジング費用に、寄付額の10-20%程度は支出している団体もあることが、開示されている範囲でも読み取れます。
社会的関心の移り変わりや市場の浮き沈みのなかでも「長期的に必要な資金を調達するために、短期で先行投資する」という経営判断をできた団体が、寄付収入を継続的に成長させているのが見受けられます。
2025年11月に東京で開催された、「認定NPOカンファレンス ignite!(イグナイト)」に参加しましたが、折しも基調講演のテーマは、非営利組織の「間接費」。
「私の寄付は100%現地に届けてほしい」という一見もっともらしい願いを現実に移すと、なぜ困った人を継続的に助けられないのか?大きな成果を達成できないのか?
「人件費や広告費に使われるなんてもってのほか‥」という社会通念が、非営利セクターの発展をいかに阻害してきたか?
世界中で500万回以上再生されたTEDトーク「チャリティーに対する考え方は完全に間違っている(The way we think about charity is dead wrong)」で知られるDan Pallotta氏が基調講演にオンラインで登壇し、その問題提起に口火を切られる形で、マーケティングや組織基盤の強化に、非営利組織が投資する大切さが議論されていました。
どうすれば非営利セクターが健全に育ち、公益が持続的に実現される一助になれるか?
私自身も、職業人生をかけて取り組みたいテーマの1つかもしれないと考え、今回の記事をまとめさせてもらいました。






.png)







