ファンドレイジングの現場で「育成」というと、OJTが中心の組織も多いはずです。一方で、経験者の採用が難しく、未経験者を戦力化していくことが求められるなか、人材育成は3年後の団体の収入を左右する重要なテーマです。複数団体での合同研修など、筆者の実践を通じて見えてきたことも踏まえ、ファンドレイザーはどのような能力を高める必要があるか、日常業務と紐付けてどう実践すればよいのかを解説します。
たとえすぐ離職する職員がいても、育成が必要な本当の理由
ファンドレイザーの育成というと「OJTが中心」。「施策を回す」「数字を達成する」のに精一杯で、計画的な育成の必要性を理解しつつも優先順位を上げられていない、という組織も多いのではないでしょうか?
- 人事に育成の機能がないので、現場任せになっている
- ファンドレイジングの実務で活かせる、研修やセミナーなどは限られている
- 自分自身も現場に放り込まれ、「勝手に育ってきた」ので方法がわからない
- 団体内で勉強会など開催することもあるが、散発的になってしまっている
- そもそも専門職を雇ったのだから、能動的にキャッチアップして成果を出してほしい
といった事情も聞かれるなかで、たとえば新しい職員が入職しても、「事業概要やミッションの講義など団体共通のインプットはあっても、実務についてはマネジャーに一任」といったケースも少なくないようです。
また離職率が低くはない組織、入れ替わりも激しい組織もあるなかで、「すぐやめてしまうかもしれないのに、育成コストをかけるのは・・」という懸念も当然あるかと思います。
(限られたリソースのなかでの葛藤は、かくいう私も感じてきました。)
このように「有効な方法がわからないし、効果も見えづらい」「予算や機会があれば、いつかできたら良い」など、組織としては注力しづらい理由を挙げればキリがないですし、私もそのような考え方に基本的には同意していました。
ところが最近では、人材育成は「寄付収入を持続的に成長させるために必要な投資であり、経営的な意味を持つ」と考えを改めるようになりました。
その理由の1つが「ファンドレイザーの離職の防止」、そして「採用市場での競争力の担保」です。
昨今の人手不足に伴い、「ファンドレイザーを採用したくても採用できない」という声はさまざまな団体から聞かれます。
民間企業と比べての待遇格差がハンデになっているのは、米英はじめ海外でも共通のようで、「給与面で競争が難しい今、多くの団体は研修・能力開発プログラムを強化することで候補者を惹きつけている」(”How to Progress Your Fundraising Career”より)そうです。
“民間企業の場合、営業やマーケティングなど収益部門は、成果をボーナスという形で報いられやすいですが、非営利団体の特性上、金銭的なインセンティブは難しいことが多いです。
そこで団体の費用で、プロフェッショナルとしての自己研鑽の機会を用意することで、優秀な人材の離職を食い止めやすくなります。”
(「ファンドレイザーが活躍できる組織と、やめていく組織の違い」で紹介した、Alan Clayton氏(英国のファンドレイジング支援会社「Revolutionise」社CEO)の講演より)
ファンドレイザーには、民間企業のマーケティングや営業、事業開発といった職種から転職してきて活躍する方も多くいます。
それらの「採用競合」の給与水準に合わせるため、高めの給与を提示しようとしても、原資の確保はもちろん、団体内の給与テーブルや他部門との調整などさまざまな制約のあるなかで、金銭的な報酬だけで報いるのは難しいでしょう。
そんな不利な条件下でも優秀な人材を惹きつけ、モチベーション高く働き続けてもらおうと、上記の講演では以下のような機会を用意することが推奨されていました。
- 自己研鑽・スキル開発のための予算(研修費等の支援)
- カンファレンスや各種イベントへの参加
- プロジェクト現場の訪問 —寄付金がどのように使われているかを自分の目で確認する
ファンドレイジング経験者の人材マーケットがあまり形成されていない国内では特に、若手や企業からの転職組など、「未経験を育てる」ことも求められやすいでしょう。
個人のプロフェッショナルとしてのスキル開発の機会を提供することは、実務的な必要性はもちろん「採用力の確保」や「離職の防止」にも有効なのです。
職階ごとの育成ニーズと、実践から見えてきた仮説
とはいっても、どのようなスキルを身につけ経験をデザインすれば、ファンドレイザーとして活躍してもらえるようになるのでしょうか?
実は2025年の1年間で、研修やワークショップなどさまざまな取り組みをさせてもらいました。
- 転職や異動でファンドレイジングに初めて携わる新人スタッフ向けの研修
- 既存寄付者のリテンションや遺贈寄付、支援者サポートなどテーマ別のワークショップ
- 7団体が集まって事例やナレッジを相互にシェアする、勉強会・コミュニティ
- ファンドレイジング責任者向けの組織開発のシェアリング
それらの取り組みを経てわかってきたのが、職員一人ひとりのレイヤーや団体の規模などによって育成のニーズや有効なポイントは異なってくること。
同時に、職階やポジション、経験年数などを考慮せずに一律のコンテンツを提供しても、適切な学びを得づらいことも体感してきました。
大まかな分け方になってはしまいますが、一般スタッフ、マネジャー、責任者(ディレクター)と職階ごとに見えてきたポイントを、解説していきます。
※年間事業規模3億円以上など比較的大きな団体を念頭に置いていますが、ご自身の役割に置き換えてお読みください。
※ここでの「ディレクター層」とは、代表や事務局長など経営層に、資金調達について直接レポーティングする責任者の方を指しています。複数のチームをまとめる役割が想定されますし、規模が小さいとメンバーを直接マネジメントする形でしょう。

一般スタッフ:未経験者を早く戦力化したい
最もよく伺うのは、「入職や異動などで初めてファンドレイジングの仕事をする職員に、早く業務を覚えてひとり立ちしてもらうには?」という課題です。
業務のやり方を覚えるだけなら、マニュアルやOJTにもとづく指導や引き継ぎで事足ります。
しかし、マニュアルやOJTだけでは仕事に臨むスタンスや意義、あるいは1つ1つの作業の背景にある仕組みやセオリーなどは伝わりにくくなってしまいます。
それらを補うために、ファンドレイジングについての研修など座学を組み合わせるのも有効でしょう。
そういった意味で、日本ファンドレイジング協会の「准認定ファンドレイザー試験」を受験する方も多いようです。
大切なのは、専門知識のインプットの範囲は、必要最低限に絞ること。
そして、業務のなかで実践してもらえるよう、くり返し働きかけることです。
業務の背景を理解し、「地図」を携えて業務にあたれば、日常業務とセオリーの橋渡しができます。
とにかく実務をこなせるようになり戦力化することを優先しつつも、そのなかで学びを得られるようになれば成長速度が高まるはずです。

また、この段階でもう1つ大事になりやすいのが、「アンラーニング」です。
特に企業からの転職組のなかには、経営やマーケティング、営業などでの経験をもとに、「こうすれば寄付が集まるはず」と強い信念を抱いて飛び込んでくる方もいます。
その経験や知識自体は有用ですが、寄付というマーケットの特殊性や収益モデルの違い、あるいは非営利団体に特有の文脈の理解が不足しているなどのため、成果に転換できない場合もあります。
それらは別の部門から異動してきた方や、他の団体(特に異なる規模やモデルで資金調達を行ってきた場合)から転職してきた方にも当てはまります。
実務を経験するなか抱いた疑問や戸惑いについて、頭ごなしに「うちの団体のやり方」を強制するのではなく、理論や事例にもとづいた解説をすれば、思い込みを手放し価値観を補正できたケースも、少なからず体験してきました。
異なるバックグラウンドを持った方々が、団体内でのハレーションや早期離職などに至らず、貴重な経験やスキルを活かし活躍し続けてもらうためにも、ファンドレイジングの基礎のインプットは役立つという印象を抱いています。
マネジャー層:抜擢した“マネジメント1年生”が育つには?
「マネジャーになって日が浅い人を、フォローする必要性を感じている」「若手や転職組など経験年数の浅いスタッフからマネジャー候補を抜擢して、活躍してもらうには?」といった相談もよくいただきます。
担当者として実績を残せても、それだけではメンバーを率いてチームとして成果を出すことはできません。
たとえば「マーケティング」なら「支援者サポート」や「データベース」など、他のチームや機能・担当者と連携しながら、成果を出していくことも求められます。
担当者からマネジメントへの移行のステップとして、たとえば以下のような経験が有効に働いているケースも少なくないようです。
- 教育係やメンターとして、新しい職員の受け入れや育成に携わることで、視座を高める経験
- 他部門との兼務やチーム横断プロジェクトへの参加など、業務範囲の拡張で視野を広げる経験
- それらの活動でリーダーシップをとる、あるいはマネジャー不在中の代理や実務リーダーを任されることによる、1つ上の階層の擬似体験
もちろん一般的なマネジメントスキルについては、既にさまざまな書籍や講座などから学ぶことができます。非営利組織特有のマネジメントについては、ソーシャルセクターの新任マネジャーのための研修なども実施されているようです。
(私が実質初めてマネジメントをした時には「はじめての課長の教科書」を何度か読みましたし、他のNPOのマネジャーと「駆け出しマネジャーの成長論 - 7つの挑戦課題を『科学』する」を輪読したこともありました。)
そのうえで、ファンドレイザーとして重要なのは、これまで取り組んできた実務を、ファンドレイジングの全体像のなかで体系的に理解すること。
さらに、自分がなぜ成果を挙げられているか?を相対化して理解する(メタ認知)することです。
「カンファレンスや勉強会などで登壇して、自団体の取り組みを発表する」
「副業で、他の組織や民間企業でも自分の得意技が活かせるか?を確かめる」
「他団体と事例共有や交流などして、自団体との違いを相対化する」
たとえば日本ファンドレイジング協会の主催する年次カンファレンス「FRJ(ファンドレイジング・日本)」への登壇や、「ファンドレイジング・スクール」でのプロジェクト型学習などもそれにあたると思いますが、大事なのは、“他流試合”による「越境体験」を通じて、業務のなかで当たり前になっていた固定観念を相対化すること。
「この前提条件だから寄付を集められていた」「違った環境では、成果を出すために異なる方法が必要」といったことを体感することは、マネジャーとしてメンバーに成果を出してもらうために、あるいは変化する環境に戦術を適応していくために、有用な体験となるはずです。
ディレクター層:責任者のサクセション(継承)と進化
最後にファンドレイジング責任者(ディレクター)について多いのは、「代表や事務局長が兼任していたが、経営に専念するので後任を据えたい」もしくは「退任するが、後任は内部昇格か採用かどちらがよいのか?」といったご相談です。
ファンドレイジング部門の責任者の役割は、「寄付者さんと良い関係を築く」や「部門内で施策が回るよう統括する」だけではありません。
組織全体としてファンドレイジングを推進できるように、団体内で折衝・調整していく役割が大切であると、海外の専門家からもたびたび指摘されています。
”寄付収入を大きく伸ばしたリーダーの時間の使い方を調べた研究結果が紹介されていました。それによると、経営者はファンドレイジングに直接的にはあまり多くの時間を割いてなかったそうです。ただし、事業部門に当事者意識を持ってもらう、理事会のコミットを引き出すなど「組織を“Fundraisable”にすべく、自らの時間の50%超を使っていた」と明らかになりました。”
(「ファンドレイザーが活躍できる組織と、やめていく組織の違い」より)
たとえば、「事業部門と協力関係を築く」「経営層に適切に報告してリソースを引き出す」といった役割を果たすために社内調整力や政治力を身につけることはもちろん、広い意味でのビジネスリテラシーや非営利組織への理解度を高めることが求められます。
「ビジネススクールに通う」「大学院で修士論文を出す」「ビジネス書やケーススタディなど独学する」
このような経験で1つ上の視座を獲得して、ケースを擬似体験することが、ファンドレイジング責任者としての振る舞いにもポジティブに作用すると体感しています。
(あるいは前職で「理事や役員として経営の経験をする」「部門長として事業の損益(P/L)に責任を持つ」経験している場合は、それらも有用でしょう。)
また海外のファンドレイジングのノウハウを取り入れるため、「海外のカンファレンスに参加する」や「英語のレポートを読む」などで国内では得られない視点を身につけることも、ディレクター層への脱皮は効果的です。
このような経験や知識を、自団体に応用して役立てるために、対話や内省が有効とも感じています。
- コーチングやメンタリングなどを責任者クラスにはつける団体も、非営利セクターでも増えてきました
- 他団体の責任者と交流しながら、悩みを分かち合い経験談をシェアすることが行われているのを耳にすることもあります。
- 団体やセクター、国境を超えて、交流や対話をする機会を得るのも、このクラスの方々には必要です
職責のなかで体験したことを、経営のナレッジや他セクターで起こっていることなどと紐付けながら理解を深めていければ、答えがないなかでどこに向かって行くべきか?の道標となるはずです。

私がご支援先で重視しているのも、責任者の方々に実務上のティップスやノウハウを伝えるだけではなく、半ばコーチングのような形でご自身の体験を振り返ってもらい、あるいは国内外の最先端で起こっていることと自団体を比べてもらいながら、どこを目指していくか?そのために何に取り組んでいくか?を対話しながら探っていくことです。
このような試みで俯瞰的な視座を得ながら、自らの内面をも含めリフレクション(内省)していくことが、団体のファンドレイジング力を高めることにもつながるはずです。
育成プログラムを1団体で回すのは無理でも、「みんなで学ぶ」を作れるか?
とはいえ、このような育成プログラムを、1つの団体のなかで回していくのは簡単ではありません。
私自身も、NPOでファンドレイジングの責任者をしていた時は業務に追われ「基本はOJT」とならざるを得なかったですし、コンサルタントに転じてからご支援先で新しい職員を迎えても、特別な研修などは用意できていませんでした。
伴走支援をすることが多かったデジタルマーケティングの分野は、「CVR」や「CPA」など専門用語も多いですが、現場で新しい言葉が出てくるたびに検索して、わからないながらもキャッチアップしてもらう‥
ファンドレイザーの方々お一人ひとりの努力に頼ってきましたが、ちょうど2025年4月は産休・育休や出向、入退職や異動などでご支援先の団体でも新しく職務に就く方が多かった事情もあって、一般スタッフ向けに4団体の合同研修を実施しました。
最後に、その事例を紹介させてください。

研修では、これまで「つまずく人が多かったポイント」や「納得感の高かった図表」など掘り起こしつつ、「全体の見取り図」を持ってもらえるようにと意図。
それぞれの団体の実務、クリエイティブやデータベースなどでどのように反映されているかを確かめる宿題を出すなど、理論だけではなく実務とのリンクを重視しました。
直後のアンケートでは、「これからの仕事でも活用できると思うか?」に「Yes」の答えがほぼ全員から集まり、3ヶ月後にもフォローアップ会を開催したところ、ほぼ全員が「コンテンツの発掘」や「LPの制作・改善」などでアクションに移していたようでした。
その後の伴走支援のなかでも、「寄付者の声を聴く」や「仮説を立て実験する」などマーケティングで大事なマインドセットを重視している姿勢が伺えたり、職員の方々同士が共通言語で会話している様子が垣間見え、嬉しくなったこともありました。
実はこれまでは、一律の学習を提供しても「響かなかった」と感じたこともありました。しかし今回の研修では、
- 日常の業務や実務の悩みとリンクするテーマを設定して、たとえば他団体の事例解説やご自身の課題のアウトプットを取り入れていくと、能動的に学びに向き合ってもらいやすくなること
- しっかりとしたインプットを用意することで、新任のファンドレイザーが戦力化するスピードは早められること
- 団体を超えた交流や参加者同士の事例共有の機会を置くことで、お一人ひとりのスキルやマインドセットにポジティブに作用する場合もあること
まだ受講者数も少ないですし、開発途上ではありますが、こういった手応えを得ることができました。
もちろんこのような学びを個別の団体で用意するのは、簡単ではありません。
しかし、ファンドレイジングは団体を問わず共通の機能やスキルが多いこともあり、「みんなで学ぶ」を作っていくことが、中間支援団体やファンドレイジング支援企業として貢献できることなのでは?とも考えています。
今回は、組織の立場から「育成」の方法論と必要な理由を述べてきました。
その他にも組織開発の観点から「学習しない組織」が衰退する理由や、学習と試行錯誤を奨励する文化の作り方について、次回の記事で解説したいと思います。







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