ファンドレイジングが発展し、人員規模も拡大する。そんな「成功」の裏側に、成長にブレーキをかけ収益が伸び悩むタネが、同時に埋め込まれている。と聞くと、意外かもしれません。成熟期に組織が内向きになり、停滞しやすいメカニズムを本稿の前半では整理するとともに、後半ではアンラーニングや越境体験、団体を超えた学び合いや伴走者の役割など、固まった組織をときほぐし変化の触媒をつくるためのヒントを解説します。
「やってみた」「一歩踏み出した」失敗を、責めない組織でいられるか?
ある認定NPO法人で、普段はリモートで働く職員も1箇所に集まっての忘年会。
「失敗オブ・ザ・イヤー」という、変わったネーミングの表彰がされました。
“この賞は、失敗を恐れず、尊厳を大切にしながら一歩を踏み出したチャレンジを讃えるためのものです。
成功したかどうか?うまくいったかどうか?は全く関係なく、「やってみた」「一歩踏み出した」 という行動そのものにフォーカスする賞になります。”
チャレンジは成否にかかわらず価値があるし、その経験を組織として学びにしていきたい。
一方、組織のカルチャーとして「失敗しにくい」状況を作り出しているのでは?という懸念を背景にこの賞を創設したそうです。
この時は、ファンドレイジング部門のチームが、「100人以上を集めたイベントを開催したものの、マンスリーサポーターの獲得には1人も至らなかった…」と受賞していました。
私はこの話を聴かせてもらい、とても素晴らしい試みだと拍手を送りました。
その理由は「失敗を奨励する」ことがファンドレイジングにおいて、とりわけ成熟期に差し掛かった組織において重要だからです。
もちろん、「寄付者の問合せ対応」や「クレジットカード決済の処理」などオペレーション業務での失敗は、不注意やスキルの欠如によることも多く、できるだけ避けるべきです。
一方で、失敗がむしろ奨励されるとはどのようなケースでしょうか?
たとえば、個人寄付のマーケティングにおいて、寄付が集まる成功パターンを“いきなり当てる”のは難しいものです。
「何を訴求したら、寄付者さんに共感してもらえるか?」「どのチャネルで費用対効果が合うか?」などをトライアンドエラーしながら探り当てていきます。
そのとき大切なのは、“早く上手に失敗する”こと。
プランを立てても失敗する確率の方が高いので、仮説を実地で検証します。まずはやってみて市場の反応を確かめ、うまくいった施策を残す。
それらのテスト結果を記録して、学びを組織に蓄積することで、ファンドレイジングの組織能力が高まっていきます。
まずは一歩踏み出し、小さな実験を重ねることで、正解を見つけやすくなるのです。
(「恐れのない組織」(エイミー・C・エドモンドソン)という書籍でも、新たなことを始めて、望まない結果が起きるのは、「賢い失敗」と奨励されています。)

一方、寄付収入が伸び寄付者数も増えるにつれて、先ほど挙げたような「オペレーション」の仕事の割合が増えていきます。
また、「年間領収書を発行できるようデータベースを整える」といった仕組みづくりの仕事においても、失敗は“避けるべきもの”です。
かつては起業家精神のもと立ち上がった組織も、安定的・継続的に価値を届けようと仕組み化を進めていきます。
その結果、“失敗しない”を是とする業務の割合が増え、チャレンジを厭わないタイプの人が減ると、成長への活力が失われていく。
「大企業病」とも言われるこのメカニズムは、企業でも非営利組織でも共通して起こるのです。
“学習しない組織”は、成長期から衰退期へ
なぜ“失敗”や“非効率”を許容しても、トライアンドエラーや実験から学んでいくことが大切なのか?
その理由は、それぞれの団体にとってのファンドレイジングが特に成長期から成熟期に差し掛かった段階で、「スタッフが学習をやめると、組織が変化を拒む」事象が起こりやすくなるからです。
その変化を、4つのフェーズに分けて見ていきましょう。

導入期/開発期
ファンドレイジングに本格的に取り組み始めた頃には、「失敗」や「学習」は意識しなくても取り組んでいきます。
組織もスタッフも経験がほとんどないので、新しいノウハウを学んだり、先輩の団体に聞いたりしながら、実地でどんどん試していきます。
私個人としても、東日本大震災の復興支援のファンドレイジングに、転職して早々に向き合いましたが、本格的な寄付集めをするのは組織としても初めての経験。
セミナーで聞いたセオリーや、企業にいた時に温めていたアイデア、アドバイスを受けた施策などを実行していきました。
成功パターンの見えない暗闇ではありますが、とにかく動いて模索していきました。
新しいことにトライすることへの拒絶感も、組織にもスタッフにもほとんど見られませんでした。
アーリーステージにいるスタッフの気質もありますし、組織の人数も少なく寄付収入の増減が自分ごととして感じられやすいです。
事業を拡大できるか?団体が存続できるか?が資金を集められるかにもかかっているので、成果を出すことを優先して動けます。
成長期
そうしてトライアンドエラーを続けていくと、成功パターンをつかんで成長していく団体もあります。
特に外部環境の変化で、「社会課題への注目が集まる」「活動テーマに資金が向かう」などがあると、寄付収入が一気に増える時期があります。
その時期に大事なのは、オペレーションの安定化です。
業務フローの整備やスタッフの採用、データベース・決済の基盤構築など、寄付を安定して受け付けられるように組織を整えていきます。
トラブルやクレーム、スタッフの離職などあらゆる「成長痛」に伴う問題を1つ1つ解決していくなかで、効率化が重視されるようになっていきます。
それ自体は大事なことですが、非効率の原因にもなる「失敗」は、上手に回避できるようになっていきます。
結果的に、失敗から学びつつ次の成功のタネを見つけていく取り組みも、開発期ほどは進みません。
また寄付者数が増えその層も広がるにつれて、対処しづらい問合せやお叱り・クレームなども増えていきます。
寄付者=「面倒なことを言ってくる人」といった認知を反映する言葉づかいが団体内で垣間見られるようになってくるのも、この時期の変化の一つです。
成熟期
こうした成長もそのスピードが鈍化するにつれ、“成長期”から“成熟期”へ差し掛かります。
寄付収入は高くキープしていますが、新規の寄付者を獲得しづらくなってきます。
市場のトレンドや寄付者のニーズと、団体にとって慣れ親しんだやり方がズレていくからです。
寄付者や他団体など団体外の話題が上がりづらくなり、代わって増えてくるのは組織内のルールや業務フロー、あるいは人間関係や人事のことなど。
たとえ新たな施策に取り組もうとするスタッフがいても、「事業部門と調整できない」「広報部からNG」など、“内向きの論理”で動かないケースが増えてきます。
ただ対外的には“一目置かれる”場合も多いので、「私たちの活動は、社会から共感を集めた」「ファンドレイジングのやり方が正しかった」といったように、組織にとっての自己効力感は高く保たれます。
それ自体はよいのですが、「ウチはすごい」「私たちはイケてる」といった意識が度を過ぎると、「1つの方法に固執する」「新しい施策にトライしない」など変化を拒む空気感につながります。
寄付収入としてはピークを迎えるこの時期に、衰退への伏線が埋め込まれているのです。
衰退期/再チャレンジ期
市場ニーズと団体のファンドレイジングの乖離が進むと、「施策の硬直化」や「スピードの低下」などによって時代から取り残されていき、寄付収入もだんだんと低下していきます。
「何かを変えなければ」と危機意識を責任者やマネジャー層が抱いても、組織が大きくなると、一般のスタッフまで浸透するのには時間がかかります。
長年続けてきた業務のフローやルーティンが時代にそぐわず、築き上げた組織の体制や文化が逆に、変化の障害になってしまうのです。
成長期を過ぎて外部環境が安定すると離職率も低下しますが、成長の鈍化とともに採用も控えがちになります。
創業者や主要なスタッフが年齢を重ねるにつれて、スタッフの年齢層も高くなっていきます。
組織の安定自体はよいことですが、団体のスタッフの新陳代謝が進まないと、変化への耐性も徐々に失われていきます。
このように「一つ前のフェーズでの成功が、次のフェーズの課題を生む」といった具合に、事業環境の変化とともに、組織も変化していくのです。
これらはファンドレイジングや非営利組織に特有の事象でもありますが、企業含めて組織や事業がたどる一般的な道のりと、基本的には共通している印象です。
※「会社の老化は止められない。 宿命にどう立ち向かうか」(細谷 功)のフレームワークを参考に、非営利団体の方々と約15年間対話してきたなかで、伺っていたことをつなぎ合わせ、まとめています。特定の団体や人物にフォーカスしたものではありません。
組織の停滞から、成長カーブを再び描くには?
ではどうすれば、それらの停滞パターンを防ぎ、再び成長カーブを描けるのか?
その答えは、経営学の「組織論」や「戦略論」などでさまざまな研究や議論がされています。
ただ、私が体験してきたことの中から本稿の文脈で1つ述べるとするなら、一人ひとりの学習と変化を促進することによっても、組織は少しずつ変わっていくと体験してきました。
たとえば、別の団体の事例や海外のトレンド、セオリーなどをインプットすることで、「自団体とは別の方法がある」「こんなことも取り組んでみたい!」といった気づきを得る、あるいは動機づけられるスタッフが出てきます。
他団体との交流や意見交換で異なる考え方に触れると、「弊団体のやり方はこうですから」「○○とは違うので」といった防御反応も出がちですが、「ウチの習慣は、ヘンかもしれない」「時代に取り残されないため、変わっていかなければ」といった、メタ認知を伴う気づきも出てきます。
冒頭で紹介した「失敗オブ・ザ・イヤー」を受賞した職員の方も、「今年の研修で学んだ『どんどん仮説を立てて、失敗していくことが大事』という言葉が心に残っていて、 とにかく動いて、失敗してみることを、実は第一四半期の自分の目標にしていました。」と、新規寄付者の獲得や既存寄付者のリテンションでトライアルを重ねたそうです。

詳しくは、職階ごとの育成のポイントについてまとめたこちらの記事に書きましたが、団体やセクターを超えた「越境体験」や、1つ上のレイヤーの視座を得る経験。
それらを“自分ごと”に置き換えるべく内省をしていくことで、変化に向けた土壌が生まれてくることを、長年多くの団体に関わらせていただく中で体感してきました。
特に成熟期に差しかかかった組織のマネジメント層以上にとって大切なのが、「アンラーニング」です。
“暗黙知”となっている価値観や行動様式、すなわち「団体にとっての当たり前」をアップデートできるか?
組織内の同調圧力に過度に制約されず、外部に目を向け、変化を志向できるか?
すなわち育成や学習とは、単に知識を伝えたりスキルを得るだけではありません。
リーダーに限らずスタッフ一人ひとりが、環境の変化に合わせて自らを変えていくマインドセットを身につけることとも言えます。
それらの積み重ねが、組織全体に変化を促していく重要な触媒になるのです。
他団体との「勉強会」で、外に目を向ける環境を
学び変化し続ける組織をつくるためにはどうすればよいのか?具体的な取り組みをご紹介させてください。
ご縁のあった6~7つの非営利組織が定期的に集まってファンドレイジングについて学び合う「勉強会」を、2024年9月から開催してきました。
成功も課題もそれぞれが持ち回りで事例を発表して、お互いに経験やナレッジを共有して学び合い高め合う。という趣旨に賛同いただいた団体同士で、自団体が強い分野は事例を共有して、まだ取り組んでいない分野は他の団体から教えてもらいます。
秘密保持の誓約をしたうえで、リアリティのある情報を共有することで、「組織を超えた交流 」と「相互の学び合い」を重視するコミュニティを目指してきました。
具体的な施策の事例から自団体でも活かすことのできるヒントを得たり、良いところを取り入れてKPIの改善を目指すことを当初は主な目的にしていました。
しかし、始めてみて気づいたのが、「つながりや刺激によってチームや人材が活性化する手応えが得られた」という声が聞かれたことでした。

一般のスタッフの方々にとっては、他団体でも同じようなポジションや分野で頑張っている方に刺激をもらい、「私も頑張ろう」「この施策をやってみたい!」という動機づけになります。
またご自身も事例を発表することで、業務を棚卸して体系化し、他の参加者からの質問やフィードバックが振り返りの機会になります。
マネジャー層に近い方々にとっても、これまでの成功パターンにとらわれず、自団体のやり方を相対化する機会になります。
「今まで内向きになりがちだったが、参加したメンバーの目線が上がり、意識が高まっている。経験や人脈が豊富なディレクターが退職した後だったので、外部から刺激を受けられることが貴重。」
「発表機会があることで、 今悩んでいる課題が何か?を構造的に理解できた。他団体との違いを知り、質問・アドバイスをもらうことで、自団体に足りない点や優れている点を相対的に比較できた。」
責任者の方々にとっても「1人1人が外に目を向け、学び変化する」ことや、「異なるものの見方が交差して、新たな視点が浮かぶ」ことは、チームが良い方向に変化していく手応えと捉えられていたようです。
「他団体と違いを深く知り、振り返りや内省ができた」「普段は組織内でも共有しづらい悩みを話し合えた」という声ももらいました。
このように組織を超えた学びあいの場は、個人にとっては自己研鑽や振り返り・内省など人材育成の機会に、組織にとっては、固まった物の見方をときほぐし、変革や成長に向けて歩んでいくきっかけになることを目指しています。
外部からの「伴走支援者」こそが、変化の触媒に
組織に変化を促すトリガーとして、もう1つ可能性を感じているのが、伴走支援者の役割です。
経営者が「戦略を立て直そう」「組織を変えよう」とコンサルタントに依頼しても、本質的な変化にはつながらず対処療法に終わってしまうケースを目にしてきましたし、私自身も痛みを伴う経験をしてきました。
外部からいくら“正解”を示しても、団体固有のコンテクストに合っていなければ、結局は内部の人たちの心に響かず、組織は動かないからです。
しかし、団体の内部だけで変化を起こしていくことが難しいのも事実です。
「なぜ変わる必要があるのか?」「そもそも自分たちのやり方の何がおかしいのか?」など、自分ごととして理解しているスタッフは、経営者以外には多くはないからです。
そこで私が思い出したのは、ジリアン・テットという文化人類学者が書いた「サイロエフェクト」というベストセラー本。
本書によると、ある部族やコミュニティ、組織などで特有の行動原理を、インサイダー(組織内の人)・アウトサイダー(外部の人)がそれぞれ解き明かそうとしても、いずれも不十分だったと言います。
- インサイダー(組織内の人):コミュニケーションが閉鎖的のため、同調圧力や同質化の影響を受けやすい
- アウトサイダー(外部の人):“お客さん”として接するのみで、インサイダーの原理を理解できない。
そこでコミュニティ内部に入りながら、アウトサイダー的な問いを立て観察することで、物事の本質を理解していくことが必要になります。
本書の中でも、「ビジネスにおいてもこの役割を果たした人が、組織を変えるため重要な役割を果たしてきた。」とされています。

私は、長期間にわたって1つの組織に継続的に関わる伴走支援者が、この“インサイダー兼アウトサイダー”の役割を果たせるのではと考えました。
外部マーケットに片足、組織内部にもう一方の軸足を置いて立つことで、内部の事情を外部の視点から客観的に捉え、その組織が「世界をどう見ているか?」を捉え直すサポートができるからです。
私自身も、施策やデータといった行動ベースや、戦略・計画といったハード面の支援だけでなく、育成や組織づくりといったソフト面も含めて、団体の「ファンドレイジング力を高める」伴走支援へと軸足を移してきました。
組織の変化やスタッフの成長をサポートする、ファンドレイジングにおける「組織基盤強化」が、持続的な成長には不可欠だと信じています。
団体内外にいるファンドレイザーの方々と力を合わせて、取り組んでいきたいテーマです。








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